落ちアユ漁        130929




やや涼しくなり過ごしやすくなってきた。 いよいよ本格的な釣りシーズンだ。 

しかし、我が家の周りの田んぼでは稲が黄金色になり、刈り取りを待ち構えている。

今日は、近所の方たちと稲刈りの準備をした。 

午前中に、コンバイン・乾燥機・トウスなど機械の整備、作業小屋の掃除と電気配線など行う。

これで、労働力さえあれば、いつからでも稲刈りが始められる態勢になった。 

お年寄りの方たちは明日からでも始めようかという勢いだ。 稲刈りが始まれば、しばらく農作業が続くことになる。

しかし、10月中旬までには稲刈りを片付けたいと思う。 

農作業期間になると、当然昼間の釣りに行けない。 短時間、海での夜釣りや川での落ちアユ漁で狩猟本能の欲求をごまかすことになる。



『落ちアユ』とは・・・

アユは海に近い河口で生まれ、一度海に出て稚魚となり、やがて春になると川の上流へ向かって上り成長する。

秋が近づくと、産卵するため再び海を目指して川を下り、河口付近で産卵する。 

落ちアユとは、この秋の産卵期に川を下ってきたアユのこと。

全国的には、お盆を過ぎたあたりから、『落ち鮎』漁が行われ始める。 

鮎は、8月の下旬ごろになってくると、大雨等で水かさが上がるころを見計らって、一斉に海へ向かって泳ぎ出す。

全国的に広く行われている漁法はヤナ漁である。 川に木や竹で、すのこ状の構造物を作り打ち上げられた鮎を捕まえる。

芦田川では、このヤナ漁はほとんど行われていない。 一般的に、刺し網漁・投網漁が行われている。

よく捕れる時間帯は、大雨の降った後の早朝などである。



『落ちアユ漁の思い出』

数十年昔、川が増水すると、芦田川漁協の多くの人が直径1mはあろうかとおもわれる大きなタマ網を持ち、川岸でアユを掬っていた。

タマ網を増水した水中にいれ、上流から下流方向に勢いよく掬い上げる。 上流に向かって泳ぐ魚を頭から掬い捕ろうというわけである。

ちょうどその時季は、川ガニ(モクズガニ)も下ってくる。 時々、タマ網にカニも入っていることがあった。

自分が幼少の頃、祖父に連れられて川魚漁に行っていた。 祖父の漁法はいつも投網であった。

秋が近づき、落ち鮎のシーズンになると、祖父は昼間、川面を観察していた。 どの辺りに落ちアユがいるか見定めていたのだろう。

なぜ昼間に見ることができる落ちアユを、昼間に捕らなかったのかよくわからない。

夜になると、孫の自分を引き連れて落ちアユ漁に出かけた。 

脳裏に焼き付いている光景がある。 

普通、漁師が捕れた魚を入れる物をビクというが、そんな物では間に合わないほど巨大な落ちアユが大量に捕れたことがある。

直径30cm、深さ30cmほどのホボロ(竹で編んだ円筒形の入れ物、当時はそう言っていた)に入りきらないほどの落ちアユが捕れた。

漁の途中で、急遽満杯になった1杯目のホボロを家に持ち帰り、捕れた落ちアユを出し2杯目のホボロを持って川に走った。

ホボロの直径よりも大きい落ちアユもたくさんいた。 アユのしっぽがホボロから垂れ下がっていた。 今で言う『尺アユ』より大きかった。

卵をいっぱいに持った落ちアユは美味しかった。 初夏のアユも、もちろん美味しかった。

しかし、落ちアユのあの卵のホクホク感は、たまらなかった。 

アユを、ほおばりながら焼酎をあおる祖父のドヤ顔を見ながら、幼少時代の自分も落ちアユにかぶりついていた。

自分は、子ども心に「自分も大きくなったら、こんなにたくさんのアユを捕るんだ」と祖父に尊敬の念を抱きながら思った。

本業である農業について祖父のことを「すごいなあ」と思った記憶はあまりない。 本筋ではなく、趣味の世界で尊敬していたようだ。 

しかし、子どもに「あんな大人になりたいなあ」と思わせることは、何でもいいのだなと思う。

おかげで、自分も祖父と同じ方面の趣味を持ち、なんとか人生を楽しんでいる。 アユと言えば、祖父を思い出してしまうようだ。



幼少の頃は、秋になるとアユがたくさん捕れるものだと思っていた。 それが当たり前なのだと、思っていた。 

現在の芦田川では、ほとんどアユが捕れなくなった。 芦田川府中漁協が毎年大量にアユの稚魚を放流していいるが、捕れない。

釣具店でも、アユの情報は、ほとんどない。 わずかに「○○辺りで、○○頃に下ってきている群れを見た」という情報を一度聞いただけだ。

昔は、大人たちの集まりや会合では、川魚漁の情報はいつも飛び交っていたように思う。

地域の会合や冠婚葬祭では、大人たちの間で、カニ(モクズガニ)漁・アユ漁・寒バヤ漁・鯉・うなぎなどの情報交換がつきものだった。

しかし、それぞれ自分が大切にしているマル秘ポイントだけは大切にしていたようだが・・・。

現在は、ほとんどどんな種類の魚も獲れない。 捕れないから、ますますそのような会話も情報も少なくなる。

この落ちアユにしても、まったく情報がない。 

さらに、落ちアユの時季は9月上旬からなので、もうほとんど期待はできない。 

しかし、狩猟本能には勝てない。 今日、落ちアユ狙いで刺網漁をしてみよう。



さっそく近くの釣り具店に行く。 小さくて軽いヘッドライトを購入する。 店主に落ちアユ情報を尋ねるが、何もないらしい。






                          






夕方6時過ぎ、刺網2張りを準備して川に出かける。 町内の、すぐ近くの河川敷に車を停める。

対岸を通過する車もライトを点灯している。 ちょうどこの辺りは川筋が2つに分かれている。

それぞれに1張りずつ仕掛けることにしよう。 先ず、1張目を近くの流れに仕掛ける。

1張目を仕掛け終わると、さらに向こうの流れに2張目を仕掛けるのは大変そうだと分かる。 

2張目は、予定変更して、1張目の少し下流に仕掛けることにする。






                






川底の石に滑りながらも、なんとかヘッドライトだけは水没させないで、2張目も仕掛けることができた。

我ながら思う。「よくやるよ。捕れる可能性はほとんどない漁なのに。ずぶ濡れになって。 人が見たらなんと思われるか。」

土手を通行している車から見ると、まさに不審者だろう。 

闇夜の川の中で、怪しく動くヘッドライトを見たら警察に通報されてもおかしくない。

まあいい、その時は、川魚漁をしているんだと、刺網の鑑札を、おまわりさんに見せるとしよう。

またまた、昔話になるが、幼少の頃は、このシーズンには、川の至る所で、ライトがうごめいていた。

漁をしているんだろうという人がけっこういたのだ。 今、川魚漁の現状は大きく様変わりした。






                         






夜中に不審者と間違われそうになったことがある。

数年前、本郷川の下流で、モクズガニ漁をしていた。 その辺りは、まずいことに川沿いに民家がたくさんあった。

漁のポイント間を移動するには、民家の間を通ることになる。 

民家の近くを通っていると、急に家の前のライトが点灯し、慌てて逃げたことがある。

考えてみれば、別に変な行動をしていたわけではないので、逃げる必要はないのだが、駆けだしてしまった。

モクズガニ漁って、そんな思いまでしてやるべきことなのか? と思ったりするが、やめられない。 



川岸には、盛りを過ぎた彼岸花が咲いている。 夕方6:40、2張りの刺網を仕掛けることができた。






                






いったん帰宅する。 夜9時30分、再び川へ移動する。 ヘッドライトを付けて川へ入る。






                          






この瞬間がいい。 仕掛けた1張目の網をライトで照らす。 「おっと! 魚が網に掛かっている! 銀色の光が反射している。」

数匹の魚が輝いている。 しかし、よ〜く見ると・・・・。  アユではない。  なんと、ニゴイだ。 30cm弱? 25cmほどのニゴイだ。

ニゴイを網から外していく。 すると、あれ? これはニゴイではない。 落ちアユだ! 産卵時期に変色しかけた雄の落ちアユのようだ。

また、しばらくニゴイが続く。 そしてギギ(正式名称はわからない、ナマズのような体型で顔の両端にとげのような物が着いている)だ。

おっ! また、雄の落ちアユだ。 そして、次は、ウジョウ(正式名称はわからない、キスのような体型で白身の魚)だ。

結果は、ニゴイが10匹(23〜25cm)、落ちアユが2匹(22〜24cm)、ギギ2匹(18〜22cm)、ウジョウ1匹(18cm)だった。



なんとか、落ちアユを見ることができた。 芦田川にもまだ、アユがいることが分かった。

来年は、9月上旬から何度か刺網を仕掛けてみることにしよう。






                   






落ちアユ以外の魚たちは、川にお帰りいただいた。






                   






今日は、遅いので落ちアユ料理は明日にしよう。 明日まで冷蔵庫で待機していただく。



                                    



一夜明けて、冷蔵庫の落ちアユは、簡単に「落ちアユの塩焼き」に変身しました。






                   






雄の落ちアユには白子が残っていました。 冷たい飲み物と一緒に「秋」を味わうことができました。

来年は、早めに落ちアユ漁を実行してみたいと思います。


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